詩を、作ってみた。
もちろん、彼への愛を綴った詩。
健全な青少年の、愛情の表現の仕方がこれなのはどうかと自分でも思う。が、しかし、だからといって愛情表現が「アレ」(敢えて口には出さないが)のみでは、いささか彼の身の負担が重すぎやしないか。というのが、彼の最近の悩みである。もちろん「アレ」を減らそうだなんて思わない、やめようだなんてもってのほかだし、それはそれで彼も溜まるだろうから。
口づけだって何回しても飽きない、彼の唇は、自分の口では言い表せないほどに甘美なもので、逆に口で表現しようとすればするほどその価値が低くなる気がするから挑戦してみたくもない。つまり何が言いたいのかというと、たまには違った面から自分の溢れだす愛情を表現してみよう、と、ただそれに尽きるのだ。
自分の中での言い訳や頭の整理をしているうちに、目の前にある先程書き上げた詩が滑稽なものに見えてきて、慌てて書き直す。もっと遠回しの方がいいだろうか、いやでもそんなに回りくどくない方が彼も分かりやすいだろうし、いや、でもストレートな表現を目指すなら詩など書いていないで最初から彼を押し倒してしまえばいい話で、…そういう話でもないか。
「いいさ、とりあえず練習!」
わざと口に出して言ってみる。彼の部屋は自分のより物が格段に少ないから、その分部屋に自分の声が響いた気がして慌てて口を片手で押さえる。
というのも今自分が居座っているのはジジイとのシェアルーム(何で青少年がジジイとなんさ、ユウと一緒だったらベッドが少なくて済むのに、という文句は今は言わないでおく)ではなく、彼の部屋だからだ。当の本人は鍛錬中だから、今ここにいるのは1人なのだが。…そうでもなければ詩など書けるものか。
「あ、あー…“君はその名前をあまり気に入ってないようだけど それを呼ぶだけで僕は、幸せではちきれそうに”…これじゃただのラブレターさ」
ベタな連想ではあるが、〆切の迫った小説家よろしく、紙をくしゃくしゃに丸め込んで後ろに投げ出す。ふと後ろを振り返れば他にもくずになった紙は他にも散乱していた。いつの間にあんなに増えたのか思い出せない。いっそのことベッドの上をこの紙でいっぱいにして、鍛錬で疲れて帰ってきた彼に向かってベッドを指し示し「これが俺の愛の形さ」とでも言ってみるか。…六幻抜刀、がオチだろう。
「…あーもう!どうしたらユウに俺の愛が伝わるんさー!」
「黙れこのバカ兎」
「っぎゃー!」
ドアに目をやれば愛しの彼が呆れ顔でドアによりかかっていた。彼の足音に気づかないほど詩作りに熱中していたというわけか。そこで自分の目的をようやく思い出して、ベッドの上の残骸を慌ててかき集めてまとめてゴミ箱に捨てシーツの皺を綺麗にしてから彼を隣に座らせる。珍しいことに彼は特に文句も言わずに黙って座ってくれた。
「あー、こ、…コホン、…ゆ、ユウ?」
「何だよ」
「あ、あー、…あー、…き、“君はその名前を…”…、や、…やっぱりダメさー!」
あれだけ時間をかけたというのに、当の本人を目の前にしたらやっぱり恥ずかしさが何よりも勝った。持っていた紙を前のと同じようにくしゃくしゃに丸めて捨て間髪入れずに彼を抱き締めてしまう。彼は突然のことに対処できなくて当然自分に文句を言ったが、大した抵抗をしてこないことに自分は彼の自分に対する思いを感じて勝手に興奮して、そのまま彼を押し倒してしまう。これじゃいつもと同じじゃないか、という冷静なツッコミを頭でしながら。
すると、彼が、笑った。
我慢できないと言わんばかりに、年相応の無邪気な笑みを浮かべて、浮かべるだけではなくさらに笑い声まで漏らして、笑った。
「さっきの方が上手く言えてたじゃねえか、このヘタレ」
「…え、え、」
それってもしかして、
…まあいいや、彼の笑顔で何もかも全部消し飛んだ。
2009.5.12 初稿
2009.10.13 修正
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